学術手話通訳よもやま話5 Talk

事前資料提供のデータ形式について

「事前資料をパワーポイントやワードのデータでほしいのですが…」。
手話通訳者の方から,このようにお願いされることがあります。
図表や画像の細かいところを確認するために拡大したり,フルカラーで確認して強調部分をつかんだり,自分で調べたことをメモとして書き込んだり…。事前準備としてそのようなことをするためには,確かにパワーポイントやワードなどのデータの方が便利です。
けれども,学術に関わる現場で手話通訳コーディネートを行うときには,書き込みや改変可能な形でのデータ提供を発表者に求めることはできない旨を説明させていただいております。

実際のところ,事前資料は,書き込みや改変が不可能なPDF等の画像データに変換して提供する研究者も少なくありません。
研究者というのは学術分野におけるクリエイターです。通訳者に提供する資料には,これから行う研究のアイデアや進行中の研究における未発表の結果の一部が含まれていることもあります。授業資料などであっても,それらをまとめて教科書や書籍として出版を予定しているケースもあります。構成も含めてそこに書かれていることすべてが,何らかのミスで情報流出して研究が妨げられたり,一部抜き取られて著者の意図とは異なる形で用いられたりするといったリスクを避けなければなりません。画像データにして事前資料を提供するのはこういったリスクを避けるためでもあります。
書き込みや改変不可なデータ形式で資料を提供するかどうかは研究者の判断となります。もちろん,発表で話す内容のポイント等をノートに書き込んで,パワーポイント形式のデータで提供してくださる研究者もいます。
コーディネーターは,研究者が提供したデータ形式のままで手話通訳者の方にお渡ししています。
こうしたことも業界が違えば,共通認識が異なるのも当たり前のことであり,コーディネーターは,双方の立場を理解してつないでいくことが大切だなと感じます。

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