学術手話通訳よもやま話3 Talk

学会の手話通訳支援サービスを充実させるということ

日本特殊教育学会のアクセシビリティ支援には深い思い入れがあります。

20数年以上前,同学会の大会に参加し始めたときは,手話ができる会員にお願いして会場の片隅でちょこちょこと通訳してもらっていました。それぞれが個人的に通訳できる人に頼むので同じ会場の中で手話通訳が2,3箇所で行われていたり,聴覚障害者がいなくても手話通訳をつけたいとシンポ企画者が手話のできる会員に依頼したため本当に手話通訳をつけてほしいところに参加できなかったり…。このような状況に,個人ではなく学会として手話通訳を提供するシステムに変えていかなければと思いました。その後,学会としてアクセシビリティサービスのための予算が確保されるようになり,手話通訳者の確保,利用者の参加プログラムの問い合わせ,手話通訳者のシフト調整,発表者やシンポジウム企画者への資料提供の依頼などのコーディネートも担当制となっていきました。3年前から10年近く務めたアクセシビリティ委員を若手が引き継いでくれています。

日本特殊教育学会大会は毎年開催地が異なります。大会の手話通訳支援サービスの提供には,開催地の手話通訳派遣団体の協力が欠かせません。派遣団体の担当者に,大会には約20名前後の聴覚障害者の参加や発表があり,手話通訳者も地元だけで15名程度必要であることを伝えると,非常に驚かれます。そんなにたくさん…と。大会のプログラムは同じ時間帯に複数のポスター発表やシンポジウム,講演が行われる構成となっていて,20名の聴覚障害者が同じプログラムに参加するわけではないためなのですが,学術研究大会レベルでこれほど大人数の手話通訳者を必要とするのは,日本特殊教育学会ならではといえるでしょう。派遣団体にとっても全く初めての経験であると言われることも珍しくありません。派遣団体の担当者と相談して,予算や日程の調整がつくようであれば,なるべく事前研修を開催するようにしています。学会の通訳現場は初めてという手話通訳者にも,通訳にあたっての必要な知識や事前準備の方法などを説明し実技を通してスキルを身につけるようにサポートさせていただいています。このような機会を通して学術手話通訳のキャリアを積むことは,大学の障害学生支援や他学会からの通訳依頼にも対応可能な手話通訳者が地域に増えていくことにつながります。それが,障害を研究対象とする日本特殊教育学会の使命であると考えています。

(中野 聡子)

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