学術手話通訳では一般的な講演会等とは異なり,手元の資料を聞き手が自分で適宜確認したり,講師が読み上げたりしながら,話が進められることがあります。学術手話通訳ユーザーのろう者は,その専門分野について手話通訳者よりも知識を持っている人々です。特に長文の読み上げでは,手話通訳は物理的に音声に追いついていくことが難しく,脱落が生じて不正確な訳出になりやすくなる傾向にあります。そのため,資料にそのままの文章で掲載されている箇所については,手話に訳出するのではなく,通訳の受け手本人に読み上げている箇所を指し示し,本人自身で読んで確認してもらうようにしてください。このときに手話を表出しつづけるとろう者は手の動きが目に入って文章を読むことに集中できなくなってしまいますので注意してください。事前準備であらかじめ,資料のどの箇所にどんなことが書かれているのか頭に入れておくこと,そして,どうしても通訳に集中していると,資料の読み上げに切り替わったことに気づきにくくなるので,そのような場合は,ペアの通訳者が手話表出をやめるように促すことも大切です。