どんな人が学術手話通訳に向いている?
これまで,大学・大学院の授業を受けるところから始まって,現在大学教員として講義や研究活動を行うなど20数年以上にわたり,数えきれないほど多くの手話通訳を受けてきました。
学術手話通訳の適性における要素としては,手話の言語スキル,通訳スキル,アカデミックなモノの考え方や理解の力といったことがあげられます。そのどれもが高い力を有しているにこしたことはありませんが,弱点をうまくそれ以外の力で補ってバランスのとれた通訳をする方もいらっしゃいます。
これらとは別に,もうひとつ,学術手話通訳の適性があると考えています。それは,知の世界を楽しむ気持ち,すなわち知的好奇心の高さです。学術手話通訳では,事前に通訳依頼内容に関する資料やテキストを見て内容を把握するために,調べたり整理して頭の中にたたきこんだりする作業が必要になります。資料を提供されたとき,「こんなの無理。めんどくさすぎる」としぶしぶやるのか,「なんかおもしろそうだな。何を話すんだろう」とわくわくしながらやるのか。このモチベーションの差は通訳に臨む姿勢にも間違いなく現れます。
手話通訳のスキルはまだもうちょっと足りないかもしれないけれど知的好奇心の高い人,逆に通訳スキルは非常に高いけど知的好奇心はそれほどではない人,の2人がいたら,私は,前者のほうが一緒に仕事をしたい通訳者と思います。
(中野 聡子)